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大阪高等裁判所 平成2年(う)258号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一〇月に処する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人石田一則作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意中刑事訴訟法三七八条二号の主張について

論旨は、要するに、本件起訴状の公訴事実は、原審の途中において、「被告人は、法定の除外事由がないのに、平成元年五月上旬ころから同月一八日ころまでの間、大阪府またはその周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を自己の身体に施用し、もって覚せい剤を使用したものである。」との訴因に変更され、原判決は、右変更後の訴因の事実をそのまま認定しているのであるが、刑事訴訟法二五六条三項の規定によれば、訴因は、被告人の防禦のため、できるだけ特定しなければならないとされているので、この点から考えると、右変更後の訴因に示された犯行日時は長期間で、犯行場所も広範な地域であるうえ、特に犯行態様については、少なくとも「自己の身体に注射し」「嚥下し」等の具体的な方法が特定されるべきであるのに、「自己の身体に施用し」というだけでは、尿検査の結果覚せい剤の反応があったから覚せい剤を使用したと認められるというに過ぎず、訴因の特定としても犯罪事実の認定としてもきわめて不十分なものであり、訴因の特定に欠け、同法三三八条四号によって公訴が棄却されるべきであったから、これを看過して実体判決を言い渡した原判決は、同法三七八条二号により破棄されるべきである、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を調査し、次のとおり判断する。

一  まず、記録によれば、本件の原審における審理経過は次のとおりであったと認められる。

1  被告人に対する本件起訴状の公訴事実は、

「被告人は、法定の除外事由がないのに、氏名不詳の女性と共謀のうえ、平成元年五月十七日午後五時ころ、大阪市東淀川区〈住所略〉ホテル「○○」二〇三号室において、前記女性からフェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約〇・〇七五グラムを約〇・七五ミリリットルのぬるま湯で溶かし、同水溶液のうち約〇・二五ミリリットルを自己の左腕内側血管に注射してもらい、かつ、同時刻ころ、同所において、同女が同女の陰部に塗布した前記同様の覚せい剤結晶約〇・〇三グラムを嚥下し、もって覚せい剤をそれぞれ使用したものである。」

というのであり、罰条は、覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条、刑法六〇条とされていたところ、第一回公判期日において、被告人は、右公訴事実について、「女性に注射器で覚せい剤を注射してもらったことはありません、同女の陰部をなめたことはあるが覚せい剤を飲んでいません」旨陳述し、弁護人は、「被告人の陳述の趣旨は、女性に注射器で覚せい剤を注射してもらおうとしたが、血管に注射針が通らず覚せい剤を注入できなかったものであり、同女の陰部に覚せい剤を塗布したのは性行為をするためで、覚せい剤を口から嚥下するために塗布したものではない」と主張した。

2  その後原審では、被告人の提出した尿に関する任意提出書、領置調書、鑑定書、犯行場所に関する捜査報告書、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書などの書証の取調べや被告人を取調べた警察官の証人尋問がなされたほか、被告人質問もなされたが、公判廷における被告人の供述の要旨は、「公訴事実の日時場所において、氏名不詳の女性から覚せい剤の水溶液を注射してもらおうとして注射器の針を腕に刺されたことはあるが、翌日警察に出頭しなければならないから打ってはいけないと思ってすぐ針を抜いてもらったため、覚せい剤は体内に入っていないと思う、その後その女性と性行為をするに際し、同女が陰部に塗った覚せい剤をなめたことはあるが、すぐ吐き出しており、ただ少しは飲み込んだ分もあると思うので、その結果鑑定による反応が出たことはあり得ると考える」というのである。

3  検察官は、原審第五回公判期日後の平成二年一月一八日付訴因・罰条変更請求書に基づき、公訴事実を、

「被告人は、法定の除外事由がないのに、平成元年五月上旬ころから同月一七日ころまでの間、大阪府またはその周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を自己の身体に施用し、もって覚せい剤を使用したものである。」

に、罰条を覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条にそれぞれ変更する旨の請求を行い、第六回公判期日で右公訴事実中「同月一七日ころ」を「同月一八日ころ」と訂正したが、同公判期日で、弁護人は、右訴因・罰条の変更並びに犯行の日時の訂正は異議がないが、犯行の日時及び施用の態様を特定してもらいたいとの意見を述べたものの、原裁判所は、右訴因・罰条の変更並びに犯行日時の訂正を許可する旨の決定をなし、右変更後の公訴事実に対し、被告人及び弁護人は、公訴事実のような事実はない旨陳述した。

4  その後原審では、第六回及び第七回公判期日において、被告人の前件の際の捜査官に対する供述調書、被告人作成の上申書、情状証人などの取調べがなされ、補充の被告人質問もなされた後、検察官は、本件公訴事実の証明は十分であり、被告人の公判になってからの弁解は措信できないとの内容の論告を行い、弁護人は、変更後の訴因は訴因の特定に欠けるから本件は公訴棄却すべきであり、あるいは、被告人の公判における供述に信用性があることを前提にして、被告人には覚せい剤使用の故意がなく無罪であるとの内容の弁論を行った。

5  原判決は、所論が指摘するとおり、右訴因変更後の事実をそのまま認定し、変更後の罰条を適用している。

二  所論は、右変更後の訴因は不特定であると主張する。

ところで、本件は、覚せい剤使用の日時、場所、方法等が明確である当初の訴因が、のちに検察官の訴因・罰条変更により、日時、場所にある程度の幅があり、使用量、使用方法の表示に明確を欠き、同時に共犯が単独犯に変った事案である。検察官が、何ゆえに右のように訴因等の変更請求したかは、記録上明らかではないが、一般的にいえば、被告人の提出した尿の鑑定結果等から被告人が故意に覚せい剤を使用した事実は疑いないが、被告人の公判における供述やその他の証拠関係から、当初の訴因で特定した覚せい剤使用の日時、場所、方法等を維持することができず、かといって、証拠上他の特定の日時、場所等を認めるには十分でないと判断したものと解される。

そして、刑事訴訟法二五六条三項によれば、公訴事実は、できる限り日時、場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定することにより訴因を明示して記載すべきであるが、犯罪の種類、性質、証拠等のいかんにより、右法条の目的を害さない限り、日時、場所等につきある程度幅があり、または不明確な表示をしても、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。このことは、起訴時における訴因についてばかりでなく、公判審理の進捗に伴い、当初の訴因として掲げた罪となるべき事実の日時、場所、方法等が、証拠との関係でそのまま維持することができなくなり、訴因を変更しようとする場合においても同様に当てはまると考えられ、変更後の訴因が右の意味での特定性を有しているのであれば、そのような訴因変更は適法である。

そこで、本件における訴因変更請求手続を考えると、本件の当初の公訴事実は、後述するように、平成元年五月一八日に被告人が提出した尿から検出された覚せい剤を体内に摂取した使用行為を起訴したものと解され、訴因変更後の事実もその点同じであって、新旧両訴因に公訴事実の同一性が認められるから、原則としてその訴因変更請求は適法であり、裁判所としては、これを許可しなければならないものである。しかし、前述したところから考えると、訴因変更請求時の証拠関係に徴し、当初の公訴事実記載の犯行の日時、場所、方法等が具体的に認定できるような場合に、それらをわざわざ幅があり、または不明確な表示に変更するため訴因変更を請求するのは、訴因を不特定にするだけであるから、裁判所として、単純にこれを許可すべきではない。また、たとえ検察官の訴因変更請求の権能を尊重しその後の立証を慮ってこれを許可したとしても、その後公判審理を重ね、なおも犯行の日時、場所、方法等につき具体的事実が認められ、変更後の訴因が、刑事訴訟法二五六条三項の法意に照らし特定性に欠けると判断されるような場合には、その訴因をそのままにして実体判断をすることは許されない。かかる場合、裁判所としては、検察官に対し、犯行の具体的日時、場所等を明確にして訴因を特定するよう、訴因の補正方釈明を求めるか訴因の再変更を促すべき訴訟手続上の義務があるといわなければならない。

所論は、右のような場合、裁判所としては、訴因の特定に欠けているとして刑事訴訟法三三八条四号により公訴棄却すべきであると主張するが、訴訟の主宰者としては、訴因が不特定であっても、それが著しい場合は格別、原則として検察官に対し右のような訴因の特定のための措置を求めるべきであり、検察官がこれに応じない場合に初めて公訴棄却するのが相当と考えられ、直ちに公訴棄却するのはかえって訴訟手続の法令違反になると解されるから、所論は、採用しない。

三  そこで、原審で取り調べた証拠関係に照らし、本件においては、どの程度犯行の日時、場所、方法等が具体的に認定できるかを検討するに、証拠によると、以下の事実を認めることができる。

1  被告人は、昭和六三年五月一二日広島地方裁判所において覚せい剤取締法違反罪で懲役二年に処せられた判決が、同年一二月一四日確定したため、検察庁から刑執行のための呼出を受けていたが、所有する農地の後始末などを理由になかなかこれに応じなかったため、大阪府黒山警察署では収監状の執行嘱託を検察庁から受け、被告人に対し出頭するよう強く求めた結果、被告人は、平成元年五月一八日同警察署に出頭した。被告人はその日は帰してもらう話ができているなどと言って抵抗したものの、即日右刑の執行のための収監の手続がとられたところ、その際被告人の態度や左腕部に真新しい注射痕のようなものがあったことなどから、覚せい剤使用の疑いをもたれ、被告人自身、覚せい剤を前日注射したことは認めたものの、尿の提出要求を拒否したため、強制採尿の捜索差押許可状が発布されるなどの経過があったが、結局被告人は同日任意に尿を提出し、その尿を鑑定に付した結果、覚せい剤の成分が検出された。

2  そこで、被告人は、同月二二日、同月中旬ころ大阪府下某所において、覚せい剤の水溶液を自己の身体に注射して使用したという事実で通常逮捕されたが、逮捕直後の司法警察員に対する弁解録取の手続において、逮捕状の事実は間違いない旨陳述し、翌二三日付司法警察員に対する供述調書においても、逮捕事実を認め、「収監された前日ころ、豊里方面のホテルで一緒に寝た女から覚せい剤を左腕に注射してもらった、このとき注射が下手で少し注射したとき痛くて止めさせ、セックスするとき女が陰部に覚せい剤を塗ったので、それをねぶった、その覚せい剤が今回提出した尿から出たと思う」と供述した。

3  事件等の送致を受けた検察官は、同月二四日、被告人が、同月一七日ころ、大阪府下某所において、覚せい剤若干量を自己の身体に注射する等の方法で使用したという事実で勾留請求したが、その際の検察官に対する弁解録取の手続において、被告人は、「お読み聞けの事実は間違いがない、ホテルで女と寝たときに女が覚せい剤を私の左腕にしてくれたり、女の陰部に覚せい剤を塗り、それをなめたりした」と陳述し、裁判官の勾留質問の際にも、事実は間違いない旨陳述した。

4  その後被告人は、司法警察員及び検察官の取調べを受け、司法警察員に対する同月二五日付、同月二六日付(二通)、同月二九日付、同月三〇日付、同月三一日付供述調書、検察官に対する同年六月一日付供述調書が作成されたが、本件犯行の経過及び犯行状況については、「平成元年五月一七日、翌日に黒山警察署に出頭しようと腹を決め、収監される前に女遊びでもしようと思って、午後二時過ぎ自分の自動車で大阪市阿倍野区に出て、パチンコ店に入りパチンコをしているとき、三二歳位の名前の知らない女性から声をかけられたので、お茶に誘って車に乗せ、豊里大橋を越えたパチンコ店の駐車場で一旦女を降ろしたが、その後午後四時ころ、その女性の案内で東淀川警察署の近くにあるラブホテルに入り、二人で入浴した際お互いの腕に注射痕があったことから、どちらも覚せい剤を注射しているということが分かって安心した、入浴後女は、湯飲みに湯を汲んできて、ショルダーバッグ内の小銭入れから一CC用の注射器、注射針と覚せい剤が五グラム位入っていると思われるビニール袋を取り出し、部屋に備えてあった落書き帳と思われるノートの端を破って、それにビニール袋に入った覚せい剤を移し、注射器にその覚せい剤と湯を入れて自分の腕に注射し、「あんたも打つか」と言ったので、翌日収監される身なので迷ったが、「打ってくれ」と答えたところ、女は、その注射器を洗った後、耳かき五杯分位の覚せい剤をその中に入れ、湯を注射器の四分の三位吸い上げ、被告人の左腕内側の血管にその水溶液の三分の一位を注射してくれたが、痛かったのでそれ以上打つのを止めてもらった、その彼女は、自分の陰部にシーツの上などにこぼれた覚せい剤耳かき五杯分位を塗ったので、被告人はセックスをした際それをなめ、一部はにがくて吐き出したが耳かき二杯分位は飲み込んだと思う、その夜はその女性と一泊し、翌朝六時過ぎころホテルを出た」と供述し、この供述は捜査段階を通じておおむね一貫している。

5  右被告人の供述に基づき、同月二五日被告人に現場を案内させたところ、被告人が最初パチンコをして女性と会ったというパチンコ店、一旦女性を下車させたというパチンコ店の駐車場、そしてその女性と行ったというホテル「○○」の場所が確認され、更に右ホテルを実地に見分し従業員に確かめた結果、被告人がその供述する日時に供述する二〇三号室に宿泊したこと、その部屋に備え付けられている落書き帳の一部が破られていることが明らかになった。

四  以上被告人の捜査段階における供述が一貫しており特段不自然な点がみられないこと、犯行前後の状況に関する被告人の供述の一部に具体的裏付けがなされており、全体としての被告人の供述の信用性を高めていることなどによれば、本件については、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書によって認められる、被告人において、当初の公訴事実のとおりの日時場所において、氏名不詳の女性との共謀のうえ、同女から覚せい剤の水溶液を注射してもらい、かつ、同女の陰部に塗布した覚せい剤をなめて嚥下し、覚せい剤を使用したという具体的な事実を認定することができる事案というべきである。被告人がその翌日に刑執行のため出頭するつもりであったことは、右犯行を否定する事情とはならないと考えられ、また、被告人が以前覚せい剤取締法違反で取調べを受けたとき、売春婦からホテルでアンナカとかハッシシを注射してもらったと弁解していることも、右認定を左右しないというべきである。

もっとも、被告人は、前記のとおり原審公判廷に至って、覚せい剤を注射してもらおうとしたが途中で断って針を抜いてもらったため、覚せい剤は体内に入っていないと思うなどと捜査段階と異なる供述をするようになり、司法警察員に対し前記のとおり自白したのは逮捕当初は公判と同じように否認していたが、逮捕されて二、三日後、黒山警察署で美原町役場に勤めている遠縁の同級生に会わされ、警察官から、「否認するんやったらお前のやっていることを村の人たちに言うぞ」と脅かされたからである、検察官に対しても否認しなかったのは、検察官の取調べの際、横にいた警察官が「こんなとこに来て汚いこと言うな」などと口を出したからである旨供述している。しかし、取調べ警察官である原審証人下元啓資は、被告人のいうような事情があったことを否定しているのみならず、何よりも被告人は、警察官から脅かされたとされる前の逮捕当初から一貫して前記のとおりの事実を認めており、覚せい剤が体内に入ってないなどの弁解は一度もしなかったのであるから、被告人の取調べ状況に関する公判供述は信用し難く、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の任意性ないし信用性が否定される理由とはならない。

五  以上によると、本件は、証拠上当初の公訴事実のとおり、犯行の日時、場所、方法等について具体的に認定できる場合であるのに、訴因変更によって、わざわざそれらを幅があり、また不明確な表示に変更し、訴因が不特定になった事案と認められる。したがって、本件においては、前記のとおり証拠関係のほとんどが、検察官の訴因・罰状変更請求がなされる前の第五回公判期日までに取調べがなされていることをも考慮すると、原裁判所としては、訴因を不特定にする結果を生ずる検察官の訴因・罰条変更請求を単純に許可すべきではなく、また、たとえ一度はこれを許可したとしても、その後、更に訴訟の進行状況に応じて、検察官に対し、犯行の具体的日時、場所等を明確にして訴因を特定するよう、訴因の補正方釈明を求めるか訴因の再変更を促すべき訴訟手続上の義務があったものといわなければならない(もっとも、本件では、共犯者を加え罰条の再変更を伴うから、後者の手続のほうが相当であったといえよう。)。

しかるに、原審は、漫然と検察官の訴因・罰条変更請求を許可したうえ、その後も右のような釈明を求めることも訴因の再変更を促すこともしなかったのであるから、訴訟手続の法令違反(審理不尽)があり、また、本件では、被告人の側から、認定できる具体的日時・場所における覚せい剤の摂取行為を前提に、それが故意によらない旨の主張がなされているのであるから、右違反は判決に影響を及ぼすものというべきである。また、原判決には、併せて、そのような不特定な訴因に基づいて、罪となるべき事実を認定したものとして、理由不備の違法もあるといわなければならない(また、厳密にいえば、覚せい剤使用の単独犯を認定した点において、事実誤認も認められる。)。したがって、所論とは異なる理由によるものの、原判決は破棄を免れない。よって、その余の論旨に対する判断を省略して、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条、三七八条四号により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い更に判決することとするが、主たる訴因については、前記のとおり訴因が不特定であり有罪判決ができないので、当審において追加された予備的訴因・罰条に基づいて次のとおり判決する(本件のように、主たる訴因がそのままでは公訴棄却の判決が免れない事案においては、予備的訴因を認定することができるものと解される。)。

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、氏名不詳の女性と共謀のうえ、平成元年五月一七日午後五時ころ、大阪市東淀川区〈住所略〉ホテル「○○」二〇三号室において、前記女性からフェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約〇・〇七五グラムを約〇・七五ミリリットルのぬるま湯で溶かし、同水溶液のうち約〇・二五ミリリットルを自己の左腕内側血管に注射してもらい、かつ、同時刻ころ、同所において、同女が同女の陰部に塗布した前記同様の覚せい剤結晶約〇・〇三グラムをなめて嚥下し、もって覚せい剤をそれぞれ使用したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(累犯前科)

原判決掲記の「累犯前科」を引用する。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条に該当するところ、前記の前科があるので、刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をした刑期の範囲内で、本件犯行の罪質、動機、態様、被告人に同種覚せい剤取締法違反を含む罪による懲役刑の前科が三犯あることなどを考慮し、更に、現在右のうちの一件の懲役二年の刑の執行を受けていることや被告人の反省の態度、家庭事情等被告人のため酌むべき情状をも斟酌して、被告人を懲役一〇月に処し、原審における訴訟費用を負担させないことにつき、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西一夫 裁判官 七沢章 裁判官 清田賢)

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